2007年07月08日

のらちび

起床。

部屋で気怠く煙草を吸っていると、どこからか猫の鳴き声が
聞こえてきた。

「にーにー……」

最初はそれ程に気にしていなかったけれど、どうにも気になる
鳴き声。猫を飼っている人は分かると思うけれど、結構猫って
その声を使い分けているんだよね。

この時は、助けを求めている気がした。

さて、しかしどこにいるのかな。


玄関を出た。声は近い。

と言うより、門の直ぐ近くに、『彼女』は蹲(うずくま)っていた。

もう、尋常ではないその様子に、とにかく驚いた。

こっちが近付いても顔を上げることも出来ない程に衰弱し、
ガリガリになったノラチビだ。


ああ、見るんじゃなかった……。

と思いかけた僕を、誰が責められようか……。



発見してしまったら、もう後戻りできない自分の性格。

取り敢えず、日差しを避けさせる為に慌てて不要な段ボールを
組み立てて、古着を敷いて、その中に入れてやった。全く抵抗しない。

この時、驚いたのが……。


もうね、体中をアリが這っていたの。

無我夢中でアリを叩き落とした。

ちょうど家にいた母親に水を持ってこさせ、僕は近くのスーパーに
猫缶を買いに走る。

今、ウチにいる猫ヨシムネは、療養食を摂っているから(尿結石に
なりやすい体質なんだとか)、それを与えるわけにも行かなくて。

猫缶なんて買うのは久し振りだった。

感慨に耽る暇もなく、ダッシュで戻り、とにかく缶を開封して
トレイに乗っけて差し入れる。

鼻をひくひくさせた『のらちび』は、それでも頭を動かすことが
出来ない。仕方ないので、指先に乗っけて顔の前に運んでやった。

ぺろ、って一度舐めて、それからはがつがつと夢中で食べ始める。

ああ、食欲があるってことは大丈夫かな。
あとは充分に水を飲ませて脱水症状にならないように。

僕の手から直接、ご飯を食べた『のらちび』は、直ぐにそのまま
眠りについた。やれやれ、ここまで来たらしかし、とことんまで
やってやろうじゃないの。

動物病院に連れて行くしかない。



ただね。


ウチは既に一匹いるんだよね……。年老いたヨシムネが。

けれど、明らかに体のどこかが悪そうな『のらちび』をこれで
放置することは、僕にはどうしても出来なかった。

動物病院って高額なんだよね……。
保険が利かないからさ……。


でも結局、運び込んじゃったよ。

   ・
   ・
   ・

相変わらずぐったりとした『のらちび』を持ち上げた馴染みの
ドクターは、その瞬間に目を剥いた。

どうも、喉のところに相当深い傷があったらしい……。

人間の虐待か、或いは動物同士の喧嘩か。後者だったらまだ、
救いはあるけれど……。

ついでに耳にも相当な傷があり、そして右目がほとんど機能して
いないようなことをドクターは説明してくれた。

ドクター:
「入院してもらうことになるね。何日掛かるか、分からないし
 助かるかどうかもわからない……」

ミツハシ:
「……そうですか……」

ドクター:
「野良だよね……取り敢えず、七割負担ってことになるけれど、
 かなりの高額になるかもしれないけど……どうする?」

ミツハシ:
「……どうしよう……ほっとくのもできないし……」

ドクター:
「でも、わざわざこんな小汚い子を運んでくる物好きは僕は
 嫌いじゃない……折半と行こうか。或いは、カンパを募ってみる
 と言うのも選択肢としてはある」

ミツハシ:
「すみません……ドクター」

ドクター:
「お金の話は、また後でってことね。さあ、手術だ――」



結局、せめて今日の分ぐらいはってことで五千円札を半ば
無理矢理に渡して、帰宅。



ああ、全くもう……朝っぱらからなんてこった。



気を取り直してRLでも書こうかとしてみたけれど、そんな
『のらちび』のことが頭から離れてくれない。


あー。

縁ができちまったよな……。


しかし実際問題、これからどうしたものかって話なんだよなあ……。

まあ、今後のことを考えるのは『彼女』が元気になってから、
ってことでFAだけど。




がんばれ『のらちび』。


超がんがれ!!












同日午後九時追記:



さっき、ドクターから電話があった。

『のらちび』は、回帰虚しく、亡くなったそうです……。

穏やかな顔だったよ、と言われて、電話口で涙が止らなくなり
ました。

なんだろう。やっぱり『今後のこと』について考えたりして
しまったことが良くなかったんだろうか、と後悔ばかりが
出てきます。

母はそれでも、最後に情けに触れることが出来たんだから
良かったんじゃない、って言うけれど。


もっともっとやってあげられたかも、と思うと後悔は尽きない。


名前を付ける暇すら無かった。


まあ、『のらちび』で良いんだろうか。




『のらちび』、いつかどこかで会おうね。




情けないけどね、本当に涙が止まらないんだ……。


posted by 光橋祐希 at 16:58| Comment(5) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
(´;ω;‘)

月並みなことしか言えませんがのらちびは幸せだった
んじゃないでしょうか。だって手ずからご飯もらって
暖かいところで他界できたんですよ…。
うまく言えませんが光橋が自分を責める必要は
ぜんぜんないと思います。
むしろ人がなかなかやれないことをやった。すごい。
さすがミツハシさん、そこにしびれる憧れる!

のらちびに代わってお礼言ってもいいですね?

『おにいちゃん、ありがとう。ご飯おいしかったお!』
Posted by at 2007年07月08日 22:56
ごめんなさい、上の記事は私です…
Posted by ゆうか at 2007年07月08日 22:58
多重カキコごめんなさい…

呼び捨てにしちゃってるところありますけど
気にしないでください。携帯新しくして
まだなれてない…
Posted by ゆうか at 2007年07月08日 23:07
> やっぱり『今後のこと』について考えたりして
> しまったことが良くなかったんだろうか
そんなささやかな見返りくらい求めてもいいだろ。
頼むよ、せめてそれくらいさ、許そうよ。
そうじゃなければ双方救われないと思う。
Posted by Alpha-S.I.D. at 2007年07月09日 11:37
◆ゆうかさん◆
 ありがとー。
 かなり楽になったよ。

 実は、ご飯を食べられた状態じゃなかった
 らしいんだよね。でもね、がつがつ食べた
 んだよ。美味しかったのかな……。

 思えば最後の食事だったのね……。


◆アルファさん◆
 うん、でもね、本当にガリガリだったんだ。
 もうちょっと早く会えていればなあ、って
 どうしても思ってしまうね……。

 まあ、変に落ち込んではいないので大丈夫よ。


 ありがとう。
Posted by みつはし at 2007年07月09日 20:44
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